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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13739号 判決

原告

佐久原栄徳

ほか一名

被告

大野勝彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、それぞれ金一三一一万九二二五円及びこれに対する平成七年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、次の交通事故により死亡した亡佐久原亮一(以下「亡亮一」という。)の両親である原告らが、亡亮一同乗の自動二輪車の所有者である被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき次のとおりの損害賠償を請求した事案である。

(損害)

1  亡亮一の損害

(一) 治療費 一万九一四〇円

(二) 逸失利益 二九〇四万一五〇〇円

亡亮一は、本件事故当時、中学校を卒業して古関鉄工に鳶職として就労し、日額一万三五〇〇円の収入を得ていた。

よって、平成六年賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計)男子労働者一八ないし一九歳中学卒業者の平均年収二四四万五六〇〇円を基礎に生活費控除率五〇パーセント、一七歳の新ホフマン係数二三・七五〇を乗じて算出すると、亡亮一の逸失利益は二九〇四万一五〇〇円となる。

244万5600円×(1-0.5)×23.750

(三) 死亡慰謝料 二三〇〇万円

亡亮一は、中学卒業後、鳶職として就労し、家計を助けるため収入の半分を父親である原告佐久原栄徳に渡していた。

亡亮一の死亡に伴う慰謝料は二三〇〇万円が相当である。

2  原告ら固有の損害

(一) 葬儀費用 一二〇万円

原告らは、亡亮一の葬儀を執り行い、その費用を負担したが、本件事故と相当因果関係のある費用は、各六〇万円が相当である。

(二) 弁護士費用 三〇〇万円

原告らは、本件訴訟提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任し、その費用報酬として、各一五〇万円の支払を約した。

3  以上合計 五六二六万〇六四〇円

4  (損害填補)

山尾の自賠責保険金 三〇〇二万二一九〇円

一 争いのない事実等

1 (本件事故)(甲三、五、八の1ないし6)

(一) 日時 平成七年一二月二五日午前〇時八分ころ

(二) 場所 大阪市大正区平尾四丁目二三番一六号先路上

(三) 態様 被告所有、棚原隼治(以下「棚原」という。)運転の自動二輪車(なにわや九四八一)(以下「加害車両」という。)の後部座席に原告らの子である亡亮一が同乗し、信号機による交通整理の行われている交差点を赤信号を無視あるいは見落として直進中、交差道路より青信号に従い右折進行してきた山尾亮(以下「山尾」という。)運転の普通乗用自動車(神戸三三り三五三三)の側面に衝突した。

(四) 結果 亡亮一は、本件事故後救急車で恩賜財団大阪府済生会泉尾病院に搬送されたが、平成七年一二月二五日午前〇時三八分、頸髄損傷により死亡した。

2 (相続)

原告らは、亡亮一の父母であり、亡亮一の相続人として各二分の一の割合で亡亮一の権利義務を承継した。

なお、原告コラッキー・マーガレット・マヌリードは、フィリピン国籍であり、昭和五四年一月一六日、原告佐久原栄徳と協議離婚し、その後アメリカ人と再婚して現在の姓名に変更したもので、旧姓はマーガレット・アイ・マヌリードである。

二 争点

被告の加害車両についての運行供用者責任

(原告ら)

1  被告は、加害車両の保有者であるが、本件事故前の平成七年一二月二三日午前一〇時ころから翌二四日午後一時ころまでの間、一昼夜以上にわたって自宅から約二〇〇メートル離れた大阪市大正区平尾五丁目三番一二号関西銀行大正支店前の路上に無施錠(仮にハンドルロックをし、エンジンキーを抜いていたとしても、それだけでは盗難防止には役立たず、タイヤ用の錠をすべきである。)で加害車両を駐車放置していたため、何者かに窃取され、本件事故当時棚原が加害車両を運転していた。

2  被告には、加害車両の管理を怠っていた責任があり、第三者に対し、当該車両の運転を容認したと同視しうる状況であったところから、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負う。

(被告)

被告は、本件事故発生当時、加害車両の所有者であったが、次の理由から、被告には、本件事故発生当時、加害車両に対する運行支配及び運行利益はなく、被告は亡亮一に対する関係で運行供用者には該当しない。また、仮に被告が運行供用者であるとしても、次の事情からすると、亡亮一は、少なくとも加害車両が盗難車であることを認識し、盗難車の運転を容認していたものであるから、亡亮一は、棚原とともに加害車両の運行を支配し、その運行利益も両名に帰属していたというべきであり、共同運行供用者として、自動車損害賠償保障法三条の他人には該当しない。

1  被告は、平成七年一二月当時、大阪市大正区平尾五丁目三番一八号のコスモレジデンス平尾というワンルームマンションの五〇五号室に居住していた。

2  被告は、平成七年一二月二三日土曜日午後一〇時ころ、加害車両を大阪市大正区平尾五丁目三番一二号の関西銀行大正支店前に駐車した後、右自宅に帰宅した。

被告が加害車両を右支店前に駐車していたのは、被告の自宅マンション建物が、サンクス平尾という商店街の中にあり、自動二輪車を商店街内に乗り入れることが憚られたこと及び自宅マンション建物には自動二輪車の駐車スペースがなかったことから、右商店街の入口に位置する右支店前に駐車していたものである。

なお、被告の自宅マンション建物入口から加害車両の駐車場所までの距離はおおよそ四〇メートルである。

3  前記日時に加害車両を駐車した際、被告は、加害車両のハンドルロックをした上で、鍵を抜いていた。

4  被告は、翌平成七年一二月二四日午後一時ころ、加害車両に乗ろうと思い、関西銀行大正支店前の駐車場所に赴いたところ、加害車両が見当たらなかったため、加害車両が盗難にあったと考え、同日、速やかに大正警察署に加害車両の盗難届を提出した。

5  被告は、棚原及び亡亮一とは全く面識はなく、同人らに加害車両を貸与したり、その使用を承諾したことは全くない。また、本件事故に先立ち、加害車両を第三者に貸与したり、使用を承諾していたこともなかった。

第三判断

一  争点(被告の加害車両についての運行供用者責任)

前記争いのない事実等に証拠(甲八の4、九ないし一五、乙一、二、被告本人)を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告は、本件事故当時、大阪市大正区平尾五丁目三番一八号のコスモレジデンス平尾というワンルームマンションの五〇五号室に居住していた。

2  被告は、平成七年一二月二三日(土曜日)午後一〇時ころ、加害車両を大阪市大正区平尾五丁目三番一二号の関西銀行大正支店前にハンドルロックを施したうえ、エンジンキーを抜いて、駐車した後、右マンションに帰宅した。

なお、被告の自宅マンション建物入口から加害車両の駐車場所までの距離はおおよそ四〇メートルである。

3  被告は、翌平成七年一二月二四日午後一時ころ、加害車両に乗ろうと思い、前記関西銀行大正支店前の駐車場所に赴いたところ、加害車両が窃取されていることに気付き、同日午後三時三〇分、大阪府大正警察署に加害車両の盗難届を提出した。

4  被告は、棚原及び亡亮一とは全く面識はなく、同人らに加害車両を貸与したり、その使用を承諾したことはなく、本件事故に先立ち、加害車両を第三者に貸与したり、使用を承諾していたこともなかった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、被告の加害車両の保管については、人の通行が自由である銀行の前に駐車していた点においていささか不十分な点がないとはいえないが、ハンドルロックをして、エンジンキーを抜いており、加害車両の保管について過失があるとまではいえず、加害車両は盗難にあったものであり、その運行支配及び運行利益は既に被告には帰属していなかったと言うべきであるから、本件事故につき被告は運行供用者ではない。

なお、加害車両にはエンジンキーが付いておらず、盗難車両であることは亡亮一には容易に認識し得たものといえ、その車両に同乗していた亡亮一は、右を容認していたものと推認できるから、亡亮一は棚原とともに共同運行供用者の地位にあったものというべきであり、仮に、被告に運行供用者性が認められるとしても、棚原と亡亮一の運行支配の方が被告と比較して、直接的、顕在的、具体的であって、原告ら(亡亮一の両親)は被告に対し、亡亮一が自動車損害賠償保障法三条にいう他人に当たることを主張することができない。

二  以上の次第で、原告らの請求をその余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 吉波佳希)

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